歯と健康寿命

 皆さんは「健康寿命」という言葉をご存知でしょうか。いわゆる寿命 = 平均寿命と対比して使われることが多いのですが、生まれてから死ぬまでの「寿命」に対して、日常で介護を必要とせずに自立した生活のできる期間を「健康寿命」と定義しています。平均寿命では世界一とされる日本ですが、健康寿命でも高い水準にあります。それでも平均寿命と健康寿命との差は、男女差がありますが10年前後あり、この期間は、他の人の介護などが必要となり日常生活が制限された期間ということになります。
 国は現在、厚生労働省が中心となって、健康寿命の延伸に向けて「健康日本21」をいう取り組みを行っています。そのなかでは9つの分野で目標を定め、国民の健康の増進の総合的な推進を図っていますが、目標とされる分野の一つに「身体活動・運動」「休養・こころの健康づくり」などと並んで「歯の健康」も掲げられています。
 具体的には「歯の健康」と「健康寿命」はどのように関連してくるか見てみましょう。
歯がほとんどなくなって、かつ入れ歯を使用していない人と、20本以上歯が残っているか、または歯がなくても入れ歯により機能が回復している人を比較すると、認知症発症リスクが2倍近くになると報告があります。転倒リスクも2.5倍になるというデータもあり、その結果、歯が残っている人とそうでない人の間で要介護となってしまう人数に差が出てきます。
 これは歯を失うことで噛む力が低下し、噛むことによる脳への刺激が少なくなるために脳の働きが衰えてしまう、生野菜等の摂取が減り、認知症発症のリスク因子であるビタミン等の栄養不足が起こってしまう、などが可能性として考えられています。転倒リスクについても歯の喪失でかみ合わせが悪化し、身体の重心が不安定となっていることが原因とも言われています。
 また歯周病は、糖尿病や関節リウマチ、骨粗しょう症、心筋梗塞や狭心症といった循環器性の疾患などとの関連性が指摘されていて、歯周病の予防・治療によってこれらの疾患のリスクを減少できるのでは、と研究がされています。
 ほかにも、飲食物や唾液に含まれる細菌が肺まで入り込んで炎症が起きてしまう「誤嚥性肺炎」も、お口のなかの衛生状態をよくすることで予防につなげようとする試みもあります。

 そもそもおいしく食べ、楽しくおしゃべりをすることも歯の健康あってこそのことなので、この楽しく健やかな生活が、健康寿命を伸ばすことに貢献するであろうことはいうまでもありません。